コラム / 2026年11月4日
中期経営計画の作り方|小さな会社が3年後の数字を1枚にまとめる4つの手順
「中期経営計画」と聞くと、大きな会社が作る分厚い資料を思い浮かべるかもしれません。でも、小さな会社に必要なのは1枚です。3年後にどうなっていたいかを数字で決め、そこまでに何をするかを並べる。この記事では、その作り方を架空の会社の例でまとめます。
- 3年後の目標は、売上ではなく「利益」と「手元の現金」から決める
- 目標の利益から逆算すると、必要な粗利と売上が出る
- 今との差を、打ち手ごとに数字で埋める。埋まらない計画は、ただの願いになる
- 計画があると、投資を「目標のどこを埋めるか・何年で戻るか・外れたら会社はもつか」で判断できる
- ただし数字には固執しない。こうありたい姿と現金の下限は守り、数字と打ち手は前提の変化に合わせて見直す
小さな会社にも3年の計画が要る理由
大きな決断の物差しになる
設備・出店・採用を「3年後の目標に近づくか」で判断できる
社員や銀行に説明できる
社長の頭の中にある考えを、同じ数字で共有できる
毎月の数字に意味が出る
「先月より良い・悪い」だけでなく「計画に対してどうか」が分かる
1枚にのせる4つのこと
- 13年後の目標
売上・営業利益・手元の現金
- 2打ち手
目標までの差を埋める行動
- 3年ごとの数字
1年目・2年目・3年目の通過点
- 4毎月追う数字
計画どおりか確かめる3つほど
これ以上は、最初はのせなくて大丈夫です。細かい部門別の数字や、長い文章の方針は、計画が回り始めてから足せば十分です。
作り方の4つの手順
ここからは、サンプルと同じ架空の会社(従業員20人・年商約3億円)で説明します。売上は3年で増えたのに、粗利率が下がり、営業利益は200万円まで減っている会社です。
1. 今の数字を3期分並べる
決算書から、売上・粗利・固定費・営業利益・手元の現金を3期分書き出します。3期並べると、「売上は伸びているのに利益は減っている」といった流れが見えます。計画は、この流れを変えるために作ります。
| (万円) | 2期前 | 前期 | 直近 |
|---|---|---|---|
| 売上 | 28,000 | 29,500 | 30,200 |
| 粗利率 | 30.0% | 28.8% | 27.2% |
| 固定費 | 7,600 | 7,900 | 8,000 |
| 営業利益 | 800 | 600 | 200 |
会社・数字はすべて架空の例です。
2. 3年後の目標を、利益から決める
「3年後に売上5億円」のように売上から決めると、利益が出ない売上まで追いかけてしまいがちです。先に決めるのは、残したい利益と持っておきたい手元の現金です。そこから、必要な粗利と売上を逆算します。
粗利率が今の27.2%のままだと、同じ利益に必要な売上は約3億6,400万円になります。粗利率を戻せるかどうかで、必要な売上が3,000万円以上変わる。こうした差が見えるのが、逆算のよいところです。
3. 今との差を、打ち手ごとに数字で埋める
次に、今の営業利益200万円から目標の1,500万円まで、何でいくら増やすのかを分けます。
営業利益 200万円 → 1,500万円 の内訳
架空の例です。「売上が増える」は今の粗利率のまま売上が3億3,000万円になった場合、「粗利率を戻す」はそこから粗利率を30%にした場合の試算です。
内訳が出たら、それぞれに具体的な打ち手をつけます。
- 粗利率を戻す:値上げや取引条件の見直し、儲かっていない取引先への対応(値上げの計算、取引先ごとの採算)
- 売上を増やす:どのお客さん・商品で、年いくら増やすか
- 固定費:増える人件費や家賃を、先に見込んでおく
打ち手を書いても差が埋まらないときは、目標が高すぎるか、打ち手が足りないかのどちらかです。ここで目標を下げるのは悪いことではありません。届かない目標より、届く目標のほうが毎月の判断に使えます。
4. 年ごとに割り、毎月追う数字を決める
3年後の目標を、1年目・2年目の通過点に分けます。打ち手はいっぺんには効かないので、最初の年は小さめになるのがふつうです。
| (万円) | 直近 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | 30,200 | 31,000 | 32,000 | 33,000 |
| 粗利率 | 27.2% | 28.5% | 29.3% | 30.0% |
| 固定費 | 8,000 | 8,100 | 8,250 | 8,400 |
| 営業利益 | 200 | 735 | 1,126 | 1,500 |
| 手元の現金 | 4,500 | 4,700 | 5,200 | 6,000 |
架空の例です。手元の現金は、借入の返済や設備の支払いも入れて見込んでいます。月ごとのお金の動きは資金繰り表で確かめます。
最後に、計画どおりに進んでいるかを毎月確かめる数字を、3つほど選びます。この会社なら「粗利率」「上位3社の売上の割合」「手元の現金」です。打ち手が効いているかが、一番早く表れる数字を選びます。
計画があると、投資を「賭け」ではなく「判断」にできる
今月・今期のことだけを見ていると、投資はお金が出ていくだけに見えます。怖く感じるのは自然なことです。でも、3年後にこうなっていたいという姿と数字があれば、投資を次の3つの問いで考えられるようになります。
1. 目標のどこを埋めるか
3年後までに足りない利益のうち、この投資でいくら埋まるのか
2. 何年で戻るか
払ったお金が、増える利益で何年あれば戻ってくるか
3. 外れたら、会社はもつか
効果がまったく出なくても、手元の現金が安心できる目安を下回らないか
例:2年目に1,200万円の設備を入れるか
- 目標のどこを埋めるか:粗利が年約300万円増える見込み。3年後までに増やしたい粗利1,700万円のうち、約2割にあたる
- 何年で戻るか:1,200万円 ÷ 年約300万円 = 約4年
- 外れたら:支払った直後の手元の現金は約3,500万円。安心できる目安の約2,500万円は上回る
架空の例です。3つとも答えられれば、「怖いからやめる」でも「勢いでやる」でもなく、失うかもしれない額を分かったうえで決められます。
ただし、目標の数字に固執しない
もう1つ大事なことがあります。計画の数字を守ること自体が目的になると、かえって会社を傷めることがあります。とくに今は、AIで仕事のやり方や、競争の前提が数年で大きく変わる時代です。3年前に決めた前提が崩れているのに、「計画にあるから」と投資を続けたり、目標の売上に届かせるために値下げしたりすると、手元の現金が先に尽きてしまいます。
そこで、計画の中身を「変えないもの」と「変えてよいもの」に分けておきます。
変えないもの
こうありたいという会社の姿と、手元の現金の下限(ここを割ったら投資も目標も止める線)
変えてよいもの
目標の数字、打ち手、投資の時期と大きさ。前提が変われば、見直すのが当たり前
そのために、計画を作るときに次の3つを書いておきます。
- 前提:「主な取引先からの注文が今の水準で続く」「見積の作業に1件2時間かかる」など、数字の土台になっている条件。これが崩れたら、数字を見直す合図です
- やめる条件:投資をするなら、「いつまでに、どの数字がいくらにならなければ止める(または広げない)」を先に決める
- 小さく試す順番:いきなり全部に投資せず、一部で試して数字を確かめてから広げる
目標を下げる・上げる・向きを変えるのは、失敗ではありません。前提の変化に合わせて動けることこそ、小さな会社の強みです。
よくあるつまずき
- 売上の目標しかない:売上が伸びても利益が残らない計画になりやすい。必ず利益と現金を並べる
- 打ち手のない数字:「毎年10%増」と書くだけでは、何をすればいいか分からない。増える分ごとに行動をつける
- 作って終わり:引き出しにしまうと、1年後には誰も覚えていない。毎月の数字と比べる場を決めておく
- 社長しか知らない:幹部や社員が知らない計画は進まない。1枚にしておくと、見せて話しやすくなる
会社の価値も、一緒に上げる
3年の計画は、利益を増やすだけでなく、会社そのものを強くする機会でもあります。たとえば、見積の値決めが社長しかできない、売上の半分以上が数社に偏っている、といった点です。これらは数字には表れにくいですが、社長が動けなくなったときや、いずれ会社を引き継ぐときに効いてきます。例の会社では、値決めの基準を書き出して幹部2人に任せる、上位3社の割合を55%から45%に下げる、を計画に入れています。
続けるコツ:毎月比べ、半年に1度見直す
計画は、毎月の数字と比べて初めて役に立ちます。月に一度、選んだ3つの数字と計画とのずれを見て、ずれていれば理由と次の手を決めます。半年に1度は、書いておいた前提が今も合っているか、打ち手そのものが合っているかを見直します。毎月の数字の見方は売上・粗利・入金を毎月見える化する方法、毎月の会議の進め方は月次の経営会議の進め方で紹介しています。
まとめ
中期経営計画は、分厚い資料でなくてかまいません。3年後に残したい利益と現金を決め、そこから必要な粗利と売上を逆算し、今との差を打ち手で埋めて、年ごとに割る。それを1枚にまとめて毎月追いかければ、投資のような大きな決断のたびに立ち返れる物差しになります。ただし、守るのは数字ではなく、こうありたい姿と手元の現金の下限です。前提が変われば、数字は見直してかまいません。
※融資の申し込みや返済条件の相談そのものは、顧問の税理士さんや金融機関にご相談ください。
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